アジアメディア上場廃止の検証-第三回
投資家の信頼を失う東証
東証は2007年にアジアメディアを何故上場させたのか?アジアメディアの上場廃止を受けて、市場からはそんな冷ややかな声が聞こえます。アジアメディアが中国株第一号として東証に上場した2007年4月には既に中国株企業の危うさはメディアなどで取り上げられていましたが、東証はアジアメディアを上場させました。第一章では、東証に上場している外国企業が次々と上場廃止になった事による東証の危機感を紹介しました。
アジアメディアの上場廃止によって、東証が失った信頼は二つあると考えています。ひとつは、東証自体が上場審査能力を十分に持って無かったのではないか?という疑念を投資家に与えてしまった事です。もうひとつは、次に中国企業が東証に上場したとしても、アジアメディアのように急激な株価の下落を引き起こす可能性があるのではないか?と中国企業自体に疑念を抱かせる結果になってしまった事です。この二つとも信頼回復には、相当な時間がかかります。証券取引の中核を担っている東証の責任は重いと思います。
しかし、東証の河野秀喜東証上場部長は「当時としては審査上の問題はなかったと考えている」と説明しています。東証がこのような説明をする背景には、ライブドア事件以降は、再びこのような事件が起こらないように、新興市場の上場企業のハードルを厳格化させたことがあります。東証側からすれば、十分に厳しい審査は行ったと言いたいところです。しかしながら、この東証の説明から投資家サイドが受ける印象は、東証が「厳格化させた」と言う審査が「実は全く役に立たなかった」というものでした。
確かに、いくら審査を厳格化させたところにおいても、今回の資金流用事件を予期する事は困難であったとも考えられます。何故ならCEOである崔建平氏は、2004年の時点で既に海豚科技の株式を売却して、全く他人のように装っていたからです。しかし、資金流用事件は、この海豚科技が負った負債の担保にアジアメディアの預金が入れられた事で起こりました。言い換えれば、東証を通じて調達されたアジアメディアの資金が中国の銀行口座を通じて海豚の借金返済に流れた事になります。
東証に中国に精通した人材が居たのかどうかは定かではありませんが、中国ビジネスを今までほとんど行って来なかった東証が中国を「甘く見た」という事は事実に間違いないと思います。その理由として、東証駐在員事務所が北京に設置されたのは、2008年1月になってからの事であり、アジアメディアの上場の時に中国に事務所(ニューヨーク、ロンドン、シンガポールのみ)すら持っていませんでした。このような状況で「審査上に問題は無かった」と平然と言える東証は、やはりグローバルの競争で勝ち抜くことは難しいと思います。
アジアメディアが上場から僅か1年で上場廃止の決定を受けた事によって、チャイナボーチーや新華ファイナンスなど、他の中国企業のイメージ悪化は避けられません。もし私が中国株を購入したいというのであれば、リスクを犯して東証のマザーズで買わなくとも、東証と同様に歴史がある香港市場に上場している大型銘柄を購入したいと思う事は当然です。板にも厚みがあって約定しやすいメリットもあります。中国株の手数料が日本株と大して変わらない以上は、そう考えて当然だと思います。東証でわざわざリスクを犯して中国株を購入する意味は、どこに求めれば良いのでしょうか?
最もメリットがあるとすれば、日本語で説明がなされる事です。日本語で説明がなされる事は、企業には負担になりますが、日本人投資家は情報を把握しやすくなります。しかし、現状において中国株に対しても日本語での情報が十分に開示されるようになってきており、本当にこれだけのメリットによって東証で株を買うべきかどうかは疑問符が付きます。結局のところは、投資家不在のままで、上場して資金を集めたい企業と、上場数を増やしていかないとピンチな東証の姿が浮かび上がります。本当に投資家の事を考えたのではなく、自分たちの事を考えているという事です。その姿勢は、バブルの時から変わらずと言ったところだと思います。
東証は既に売買代金の低迷に悩んでおり、外国企業の上場の他にも商品充実に努めようとしています。ここでは少しだけその取り組みと問題点を紹介します。一例をあげると、今年6月に個人投資家が小額から投資可能なミニTOPIX先物の扱いも始めました。また、2007年8月に大証で上場された金のETFと同じように2008年6月に東証でも金のETFを上場させるなどETFの充実を急いできました。この結果として、2007年7月末時点で僅か12本だったETF上場数は、2008年7月末時点で54本まで増えました。これらの上場数を増やす取り組みと平行して、今まで渋ってきた規制緩和にも乗り出しています。例えば、従来は英語のみでの情報開示を認めてきませんでしたが、2009年からプロ市場を創設する事で英語のみの開示を認める方針を示しています。
ただし、このように東証が改革を進めようとする裏側では、様々な問題が生じてきています。特にシステムトラブルの問題が目だって増えてきています。特に2005年以降にシステムトラブルが目立っており、東証の信頼を損ねる結果となっています。先ず、2005年11月1日には東証史上初めて全2520銘柄(東証1部、2部、マザーズ上場株式と、不動産投資信託(REIT)、転換社債型新株予約権付社債など)が取引停止になるシステム障害を起こします。その後2005年12月8日にみずほ証券から誤発注注が出されたものをシステム障害でそのまま約定させてみずほ証券に総額400億円の損害を発生させました。2008年に入ってからは、7月に東証株価指数(TOPIX)先物や国債先物・オプションなどの取引が午前中停止するなど、半年の間でも既に3度のシステムトラブルが起こしています。
このようなシステムトラブルの多くは、東証が改革の中でシステムを刷新したり、新しいシステムを導入してく過程で発生しています。東証のシステム自体がニューヨーク証券取引所やロンドン証券取引所と比較して数年遅れているとされており、これを挽回する為に2010年稼動を目指して数百億円規模で富士通と2009年にシステムを次世代のものに改める計画があります。これを実現させる事で、処理速度は世界最高レベルになるものとされています。
私は、システムトラブルを含めたこうしたトラブルの多くが、東証だけの努力では既に限界が見えていると考えています。証券取引所が努力する事は当然ではありますが、国や証券会社の姿勢が求められています。特にバブル以後に個人投資家が市場に戻って来なかった背景には、個人投資家を騙し続けた証券会社の体質というものがあり、それは今でも変わっていません。国の金融大臣は、格好ばかりで金融の知識を全く持たない素人でした。アジアメディアに見る東証の問題は、何も東証だけの問題ではなく、日本金融業界全体の問題であると思います。その中で、東証は自身の存在意義が危うくなる事に危機感を募らせています。
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